会計監査人から見た社会福祉法人

(Question)

会計監査人はどのような目線で社会福祉法人の会計監査を実施するのでしょうか。受ける側にとって監査というと身構えてしまいます。

(Answer)

当事務所では社会福祉法人への会計監査は3つの側面を持っていると考えます。1つは会計数値が適正に作成され利害関係者に適切に情報開示がなされることを担保する点、2つ目は会計監査の観点から発見された業務の非効率や経営管理上のリスクを理事者やその他の管理者にアドバイスする点、3つ目は会計監査で発見された不正や不備を理事・監事に共有しより強固なガバナンスを確立する点です。

1つ目の適切な会計監査について、会計監査の特徴から説明します。多数の経理担当者が1年間かけて記帳、作成された財務数値を公認会計士が数日間で適正か否か判断をすることになります。いくら専門的知識を有している公認会計士でも全件チェックは不可能です。そのため、

・会計監査は1円単位で合わせにいくものではない

・原則としてサンプルチェックであり、全件チェックではない

・監査上のリスクがある点を中心に確認する

・経営に口出しすることはない

・取引が正しく会計処理されていれば会計監査としては適正意見となる

これらを総合し極端な説明をするのであれば、リスクのある点や金額的重要性のある点をサンプルチェックするということになります(極論のため、もちろん全件チェックすることも、その他の監査手法を使用することもあります)。

では会計監査人が考えるリスクとはどのようなものがあるのでしょうか、それが理解できればどのような項目を中心にチェックを受けるのかの判断材料になります。例えば理事者が施設の財務安全性をアピールしたいと考えている中で、保育事業の定員割れが生じた場合、介護事業において利用者の入れ替わりにより介護度が低下し保険収入が減少した場合、就労支援事業の採算が悪化した場合などがあったらどうでしょうか。事業活動収入を実績額より多く計上し、財務状況を良く見せたい、架空サービス提供に基づく介護報酬の不正受給をしたいというインセンティブが働くこともあるでしょう。そのようなリスクが高いと感じた場合には事業活動収入は非常に細かく理事者にヒアリング、外部への確認、エビデンスのチェックなどを行うことになるでしょう。もちろんリスクは理事者だけとは限りません、職員の不正リスクが高いと判断する場合には、その部門が関与する項目にリスクを見出すこともあります。この他にもそれぞれの法人が行っている実績によっては設備投資関係、諸経費関係を重要なリスクと捉えることもあります。これは法人ごとに異なるため、ご自身の施設がどのような経営方針を取っているかを自己分析すると会計監査人の目線を理解することができることになります。

 

2つ目の業務の効率化などのアドバイスは指導的機能と言い、会計監査を受けた法人に対して厚生労働省が行った調査においても法人はメリットがあったと多くご回答されています。公認会計士は非常に多くの企業の内部体制や業務フローを理解してきており、監査ではあるものの気づいた非効率や内部統制の危うさなどをお伝えできるよう常に考えております。

(関連)社会福祉法人の会計監査の効果

 

3つ目のガバナンスの強化は、社会福祉法人にとっては非常に重要です。会計監査という意味では、例え不正な取引が行われてもその取引にあった会計処理がなされ、その不正事項が資金収支計算書や事業活動計算書、貸借対照表などに表れていれば適正意見となると考えられます。しかし、それでは社会福祉法人に会計監査人を導入することとなった背景、趣旨に合っていません。そのため、理事・監事、その他の内部監査担当者と連携し、会計監査上発見された不正事項などを協議し、法人全体のガバナンス強化に寄与しています。不正事項などがないかどうかといった点も社会福祉法人会計監査の重要な目線となります。

 

※上記の意見にわたる部分は当事務所の見解であり、何ら保証するものではないことをお断り申し上げます。