無形資産価値評価(PPA)の基本

(Question)

当社は上場会社で、海外の企業を買収しました。事前に監査法人から、数多くの識別可能資産が存在すると指摘を受けており、無形資産の評価を専門家に依頼しています。この無形資産の評価について、監査法人対応などの留意点を教えてください。買収から半年経過しますが、監査法人との協議が継続しています。

(Answer)

よく聞くPPAとは、本来的には取得原価の配分という手続きを指しますが、近年ではもっぱら無形資産の評価全般をPPAと呼んでいます。

買収の処理では、買収額が企業結合日の被買収会社の時価資産と時価負債の差額を超過した場合にはその超過金額をのれんとして資産計上します。反対に買収額の方が小さい場合には負ののれんとして一括利益計上します。

この時価資産の中には、個別財務諸表において従来認識されていなかった項目(別記しますが)、例えば顧客リストや商標権、専門的技術力などが含まれます。これらは将来、収益を生む可能性を秘めた目に見えないもの、つまり無形資産であると考えられます。よって、これら新しく識別・資産計上される無形資産の金額によって、のれんの金額が変わります。

のれんの金額が変わるということは株主や債権者、課税者などの利害関係者にとっては、非常に大きな意味を成します。ここでは、その意味と留意する事項を区分して説明します。

【連結上におけるのれんの意味】

連結上におけるのれんとは、買収した場合に発生するシナジー効果と説明されることがありますが、本来的にはそれだけではなく、シナジーを超えた買収交渉の上手い下手という買収会社としての能力が入ります。よって、無形資産が低く評価され、のれんの金額が高いと評価されると、買収した経営者は利害関係者に詳細な説明を求められることとなります。もちろん、共通したシステムの統合によるコスト削減策や、市場シェア拡大に伴う販売優位性・仕入優位性といった明らかなシナジー効果を合理的な数値をもって説明できれば問題はありません。しかし、合理的な説明ができない場合に、万が一、思ったよりも買収効果が上がらなかったとしたら経営責任を問われかねません。

【留意する事項】

新たに認識されたのれんや無形資産の償却年数は非常に重要な点です。

例えば、買収額と時価との差額を100として考えます。このうち、独占販売権20(5年償却)、顧客リスト30(10年償却)、のれん50(20年償却)と評価された場合に、当初の年間の償却費は合計で9.5となります。

これに対し、同償却年数で独占販売権40顧客リスト50、のれん10と評価された場合、当初の年間の償却費は合計で13.5となります。

つまり、償却年数は各資産によって異なることが当然であるため、PPAをいかにするかによって年間の財務状態、つまり純資産が変動します。

一般的に海外を含むM&Aは巨額な投資となることが多く、金融機関と協力体制を作り巨額の借入を行います。この場合には財務制限条項や他のコベナンツがかかっています。したがって、巨額投資の場合のPPAは非常に重要な手続きとなります。

 

このように買収時において利害関係者は、発生するのれんの金額や識別無形資産を有価証券報告書やIRなどで非常に注意深く見ています。そのため、会計監査人である監査法人や公認会計士事務所もその合理性については長時間にわたり検討・会社との協議を重ねた結果として監査報告書を発行します。買収におけるPPAは、あいまいに振り分けを行ったり、無形資産と考えられるものがあるにもかかわらず、その評価が困難であるとして買収額と時価差額を全額のれんとしてしまうことでは、利害関係者に対して不適切な行動であり、時間と専門家報酬、体力を削ってでも合理的算定を行わなければなりませんし、専門家レポートをそのまま鵜呑みにせず、会社としてもその合理性判断を行うことができるよう検討の能力を高める必要があります。

なお、PPA評価は専門家としても特殊な能力を要します。依頼される専門家がこの分野について長けているか否かはご判断いただいたうえでご依頼されることを推奨します。

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※上記の意見にわたる部分は当事務所の見解であり、個別の会計・税務処理に対して何ら保証するものではないことをお断り申し上げます。