標準原価の適時の見直し

(Question)

標準原価に対して会計監査人はどのようなことを検討するのでしょうか。

(Answer)

標準原価は、材料価格の変動、製造担当者の習熟度、製造設備の入れ替え、その他経費の有無の変動により適時に見直しをすることが必要です。

標準原価が長期間にわたって見直されていない場合、①経営管理上の問題、②不適切な財務諸表の作成をもたらすことがあります。

①経営管理上の問題

見直しが適時になされていない場合、実際原価と標準原価の差額である原価差額は大きくなっている場合があります。原価差額が大きくなっているということは、この分析ができておらず、行き当たりばったりの経営をしている証拠です。

原価差額とは適切な分析により多くの経営に有用な情報をもたらしてくれます。上記で記載したように、材料価格の上昇や製造担当者の習熟度は管理者としてイメージは合ってもそれを数値として見ることにより、販売価格への転嫁の検討、人事評価への活用などにも使用できます。適時に原価差額を分析し、標準原価の見直しを行うことは原価の面からPDCAを高速に回すことを意味します。

 

②不適切な財務諸表の作成

標準原価計算を採用し、発生した原価差額を適切な基準により売上原価と期末在庫に配賦している場合は大きな問題点とはなりにくいですが、原価差額を全て売上原価に計上している場合には論点となることがあります。

一般的にメーカーは、販売管理・在庫管理システムを導入しています。しかし、旧来のシステムによっては原価差額の適切な配賦に対応していない場合があります。多額の原価差額が発生しているにもかかわらず、原価差額が期末在庫に適切に配賦されていない場合、財務諸表上、棚卸資産価額が過大(過大利益)、または棚卸資産価額が過少(過少利益)として開示されることとなります。

会計監査人は期末在庫について、主に”本当に在庫が実在するか”,”その評価額は適切か”といったことを確認します。このうち、評価額については、製造製品が現在のマーケット状況から評価を下げる必要はないか、品質劣化しているものはないかといった通常の低価法の適用を検討するだけでなく、そもそもの原価計算の適切性を理解するために工場視察や原価計算部署の内部統制をテストすることがあります。

また、標準原価による在庫金額が適切でない場合で、季節によって在庫数量が大きく相違する、つまり季節変動がある企業の場合、月次決算損益に大きな影響を与えます。本来は大きく変動するはずのない粗利率が月次決算でバラつきがあると経営会議、取締役会等で誤った判断となる可能性があることにご留意ください。

※上記の意見にわたる部分は当事務所の見解であり、個別の会計処理に対して何ら保証するものではないことをお断り申し上げます。