実地棚卸の重要性と活用方法

(Question)

当社は現在、在庫の実地棚卸を年度末に行っています。在庫の棚卸は決算を完了するためにしなくてはならないと理解していますが、多くの時間と費用がかかります。しかし、取締役から「今期から棚卸を年2回とする」との話があり、そこまでする必要性があるのか疑問に感じています。税務申告では年度末の在庫金額が確定していれば済むため、中間期の実地棚卸の意義を教えてください。

(Answer)

実地棚卸の目的は、決算において売上原価を確定させるためだけではありません。実地棚卸は、経営者の経営判断に非常に有用な情報をもたらします。

実地棚卸では、帳簿上の在庫量と実際在庫量の棚卸差異(棚差)が生じます。この棚差の分析が非常に重要です。税務申告だけを目的とした実地棚卸では、せっかく良い情報であるこの棚差を分析していない場合がありますが、非常にもったいない状態です。

この棚差が0.5%~1.0%程度であれば、そこまで大問題になることはないでしょうが、3.0%以上あったら原因を早急に解明する必要があります。このように相当量の棚差が発生する要因は例として以下のようなものがあります。

・実地棚卸方法が適切でない

実地棚卸の方法はいくつかありますが、方法が周知徹底されておらず、棚札がすべて貼られていなかったり、棚卸中に物流が稼働していたりと誤った実地棚卸がされている可能性があります。

・万引き、横領が発生している

万引きが生じると当然に棚差になります。棚差の原因の多くがこれである場合、すぐに監視カメラの設置や声掛け運動などで防止する必要があります。

また、従業員不正により、在庫が流出している可能性もあります。こういった場合、内部統制が構築されていないことがほとんどです。

・販売管理、在庫管理システムの使用誤り、不正が存在する

発注、入庫、店舗間移動、出庫の際のシステムへの商品コードの打ち間違い、システム間インターフェースのエラー・バグなどにより日々、在庫量がずれている可能性があります。

また、営業部門が利益率の高い商品コードを用いて処理し(実際の商品は発注のあった正しい商品)、部門利益率を高めるといった不正が生じている可能性があります。これは賞与等の計算基準からくるインセンティブにより発生することがありますが、こういった賞与設計をする場合には、より高度な内部統制の構築が必要です。

いずれにしても、棚差が大きい場合、中間月や決算月において一度に大きな費用・損失を計上することになります。そのため、月次決算の損益状況をゆがめることになり、経営者が的確な経営判断を行うことが困難になります。実地棚卸回数を増やす意義は、早めに棚差の原因を解明し、原因に対処することにより、発生している損失を回避することにあります。

※上記の意見にわたる部分は当事務所の見解であり、個別の会計処理に対して何ら保証するものではないことをお断り申し上げます。